2023年のヨーロッパの肥満コングレス(European Congress on Obesity (ECO))という学会で大変興味深い研究が発表されています。
ストレスホルモンであるコルチゾールの髪の毛髪濃度と将来の心臓血管疾患(心筋梗塞や脳卒中)の発症との関係を調べた研究です(Prospective relation between long-term glucocorticoid exposure and incident cardiovascular diseases in a large population based cohort: results from the Lifelines cohort study. ECO 2023, abstract AD14.06)。
血液中のコルチゾールなどのステロイドホルモンは、急性ストレスに対応すべく強い作用を持つため、作用した後は速やかにデトックスされます。
したがって、糖質制限のように慢性的に分泌されているコルチゾールの全身の影響を調べるには、血液よりも毛髪などのデトックスされた後の濃度を調べる方が適切であることが近年指摘され始めした(尿の場合は、肝臓や腎臓機能によって変化する)(Cardiovascular Disease and Hair Cortisol: a Novel Biomarker of Chronic Stress. Curr Cardiol Rep. 2019 Aug 30;21(10):116)(Hair Measurements of Cortisol, DHEA, and DHEA to Cortisol Ratio as Biomarkers of Chronic Stress among People Living with HIV in China: Known-Group Validation. PLoS One. 2017 Jan 17;12(1):e0169827.)。
毛髪では、コルチゾールは不活性化されたコルチソン(cortisone)が検出されやすくなります。
冒頭の学会報告された研究の結果は、毛髪にコルチソン(cortisone)が長く検出されている人ほど、心臓血管疾患になる確率が高くなりました。
毛髪にコルチソン(cortisone)が長く検出されているというのは、体内に慢性的にコルチゾールが分泌されているということを示しています。つまり、糖質制限でもたらされる病態です。
(糖質制限でストレスホルモンであるコルチゾールが過剰分泌されるというエビデンスは、拙著『メタボリック・スイッチ』に詳述していますので、ご参考にされてください。)
特にこの傾向は、57歳以下の若年者に強く、毛髪にコルチソン(cortisone)が検出されない人と比較して3倍も心臓血管疾患になる確率が高くなりました。
57歳以降では、毛髪のコルチソン(cortisone)濃度は、将来の心臓血管疾患発症と強く関連していませんでした。
これは大変興味深い結果です。
若年層では、毛髪のコルチソン(cortisone)濃度は、体内のコルチゾール濃度を直接反映していることを示しています。
現代の若年層は、それだけ、より過剰にコルチゾールの慢性暴露があるということです。
コルチゾールが高い状態では、感染症にかかりやすくなり、疲れやすくなったりさまざまな心身の不調が噴出してきます。
現代の若年層も心身の健康度が上の世代と比較してかなり低下していることは、過去記事でもお伝えしたとおりです。
これは、♨️世界経済フォーラムが指導する現代社会においては、ストレス要因が指数関数的に増えている現状を物語っています。
一方、57歳以降では、毛髪のコルチソン(cortisone)濃度は、むしろコルチゾールのデトックスの指標となっています。
57歳以降では、若年層ほどコルチゾールの暴露がないことを意味します。
したがって、毛髪検査も年齢(正確には生理的年齢)によって意味合いが違ってくることに留意しないといけません。
いずれにせよ、毛髪検査から若年層が慢性的にコルチゾール暴露にあっていることが分かります。
したがって、すでにコルチゾール暴露にあっている若者に、糖質制限を行うと、さらにコルチゾールに暴露することになります。
つまり、糖質制限は若年者に「泣きっ面に蜂」あるいは「傷口に塩を塗る」ことになるのです(^_−)−☆。
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