「『カロリーゼロ』が孫にも影響する!?」
――人工甘味料が腸・血糖・代謝に残す見えない負担――
「砂糖ゼロ」「糖類ゼロ」「カロリーゼロ」。
こうした表示を見ると、砂糖という“悪者”だけをきれいに取り除き、甘さという楽しみだけを残したように感じます。しかし、2026年に発表されたマウス研究は、その「ゼロ」という安心感に大きな疑問を投げかけました。
親世代に人工甘味料のスクラロースまたはステビアを与えたところ、人工甘味料を直接摂取していない子世代や孫世代にも、血糖調節、腸内細菌、短鎖脂肪酸、代謝や炎症に関係する遺伝子の働きに変化が残っていたのです【9】。
もちろん、これはマウス研究です。人間でも同じことが起こると証明されたわけではありませんが、それでも、人工甘味料の影響が、飲んだ本人の体だけで終わらない可能性を示した点は見過ごせません。
⭐️人工甘味料は、砂糖からカロリーだけを抜いたものではない
砂糖と人工甘味料は、どちらも舌には甘く感じられます。しかし、体内での働きはまったく異なります。
ショ糖はブドウ糖と果糖からできており、細胞が生命エネルギーをつくるための実際の燃料になります。肝臓のグリコーゲンを補い、血糖が低下したときに分泌されるアドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンを抑える働きにも関係します。
一方、スクラロース、アスパルテーム、サッカリン、アセスルファムKなどの人工甘味料は、強い甘味を与えても、生命エネルギーとしての燃料とはなりません。
舌と脳には「甘いものが入ってきた」と知らせながら、細胞には実際の糖質エネルギーが届かないのです。人工甘味料は、砂糖からカロリーだけを取り除いた物質ではありません。エネルギーを供給する糖質を取り除き、甘味受容体だけを刺激する別の化学物質へ置き換えたものです。
⭐️直後に血糖値を上げないことと、糖代謝を乱さないことは同じではない
人工甘味料は糖そのものではないため、飲んだ直後の血糖値を砂糖と同じようには上げません。
しかし、「血糖値を直接上げない」ことと、「糖代謝に何の影響も与えない」ことは同じではありません。
2013年のヒトの研究では、普段人工甘味料を摂取していない肥満成人が、ブドウ糖を飲む前にスクラロースを摂取すると、水を飲んだ場合よりも血糖値とインスリンの反応が大きくなりました【3】。2018年の無作為化試験でも、健康成人がスクラロースを継続して摂取した結果、インスリン感受性が低下しました【4】。インスリン感受性が低下は、2型糖尿病の原因です。
さらに2020年の研究では、スクラロースだけを摂取した場合には明確な悪化が認められなかった一方、スクラロースを炭水化物と一緒に摂取した場合には、インスリン感受性が低下し、甘味に対する脳の反応にも変化が生じました【5】。
これは、実際の食生活を考えるうえで重要です。
ダイエット飲料は、必ずしも単独で飲まれるわけではありません。パン、菓子、ハンバーガー、ポテトなど、糖質やデンプンを含む食品と一緒に摂取されることが多いからです。人工甘味料の影響は、その物質だけで決まるのではなく、同時に何を食べたかによっても変わる可能性があります。
したがって、人工甘味料は摂取直後に血糖値を上げることはないかも知れませんが、長期的にインシュリン抵抗性を引き起こして血糖値を上げる可能性があるということです。
⭐️問題は、血液中の糖ではなく、細胞が糖を燃やせるかどうか
私が長年お伝えしてきたのは、血糖値の数字だけを見て糖を悪者にするのではなく(実際はプーファが原因)、「細胞が糖をきちんと酸化し、エネルギーへ変換できているか」という視点です。
血糖値が高いからといって、必ずしも糖が多すぎるとは限りません。細胞が糖を利用できず、血液中で渋滞している可能性もあります。
1963年に報告された「グルコース・脂肪酸サイクル(ランドルサイクル)」では、血液中の遊離脂肪酸が増え、脂肪酸の燃焼が優位になると、筋肉などでブドウ糖の取り込みと酸化(糖の燃焼)が抑えられることが示されました【1】。
糖質制限、長時間の空腹、睡眠不足、激しい運動などによってアドレナリンやコルチゾールが高まると、脂肪組織から遊離脂肪酸が放出されます。これは、停電を防ぐために非常用発電機を動かすようなものです。短時間なら命を守りますが、毎日動かし続ければ、煙と熱で建物そのものが傷んでいきます。
人工甘味料は甘味を与えても、肝臓のグリコーゲンを補充する糖質にはなりません。そのため、砂糖を人工甘味料へ置き換えることは、単にカロリーを減らすことではなく、体が利用できる燃料を取り除くことでもあります。
⭐️砂糖にはあって、人工甘味料にはなかった作用
2015年のヒトの研究では、女性がショ糖入り飲料またはアスパルテーム入り飲料を2週間摂取し、その後、心理的ストレスを受けた際の反応が比較されました。
その結果、ショ糖入り飲料を摂取した場合には、ストレス時のコルチゾール反応が抑えられました。しかし、アスパルテーム入り飲料では、同じ作用は認められませんでした【2】。
砂糖は、単に舌を甘くするだけではありません。実際の糖質エネルギーを体へ届け、ストレス反応を和らげる重要な作用を持ちます。昔から医療現場でもショック時には糖質の点滴がなされています。
人工甘味料は、暖炉の映像をテレビに映すようなものです。見た目は暖かそうでも、部屋を暖める熱は生まれません。
⭐️許容摂取量以下でも、腸と代謝は反応していた
2025年の3重盲検無作為化試験では、健康でやせた成人が、許容1日摂取量の30%に相当するスクラロースを30日間摂取しました。
その結果、インスリン感受性が20.3%低下し、腸内細菌の多様性低下、便中酪酸の低下、炎症に関係する指標の変化が報告されました【6】。
許容1日摂取量とは、「その量まで体が一切反応しない」という数字ではありません。従来の毒性試験をもとに、明らかな毒性が起こりにくいと推定された目安です。腸内細菌の変化や、インスリン感受性のわずかな低下まで、すべて起こらないと保証する数字ではないのです。
⭐️腸内細菌という体内工場が書き換えられる
人工甘味料の影響で特に注目されているのが、腸内細菌です。
2014年の研究では、人工甘味料を与えたマウスで耐糖能が悪化しました。さらに、そのマウスの腸内細菌を別のマウスへ移すと、血糖処理の悪化まで移りました【7】。
2022年のヒト試験では、健康成人120人にサッカリン、スクラロース、アスパルテーム、ステビアなどを摂取させました。その結果、4種類すべてが腸内細菌叢や細菌由来の代謝物に、それぞれ異なる変化を与えました。特にサッカリンとスクラロースでは、血糖反応への影響が認められました【8】。
⭐️親が飲んだ人工甘味料の影響が、なぜ孫にまで残ったのか
2026年のマウス研究では、親世代にスクラロースまたはステビアを16週間与え、その後、子世代と孫世代まで追跡しました【9】。
子世代と孫世代には、離乳後、人工甘味料を与えていません。それにもかかわらず、スクラロース群の子世代のオスでは、ブドウ糖を処理する能力の低下が認められました。孫世代では、スクラロース群のオスと、ステビア群のメスで空腹時血糖が高くなっていました。さらに、腸内細菌叢、短鎖脂肪酸、炎症や代謝に関係する遺伝子の働きにも変化が残っていました。

特にスクラロースの影響は、ステビアよりも強く、長く続く傾向を示しました。これは、池へ石を投げたあと、石そのものが沈んでも、波紋だけが遠くの岸まで広がっていくようなものです。
子世代は離乳後に人工甘味料を摂取していませんが、胎内や授乳期には母親を通じて影響を受けています。孫世代につながる生殖細胞も、子世代が胎児である段階ですでに存在します。
大規模な観察研究では、人工甘味料の摂取量が多い人ほど、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクが高いという関連が報告されています【10】【11】。観察研究は火災報知器のようなものです。煙が出ていることは教えてくれますが、誰がどこへ火をつけたのかまでは分かりません(相関関係のみで、因果関係は提示できない)。
それでも、ヒト試験、動物実験、腸内細菌研究、長期観察研究という別々の道から、同じ方向の警報が聞こえていることは無視できません。
砂糖への過剰な恐怖の煽動が、「カロリーゼロ」「糖類ゼロ」という人工甘味料市場を拡大させてきました。人工甘味料は甘味受容体を刺激しても、同じ糖質エネルギーを届けません。そして、カロリーはゼロでも、腸内細菌、血糖調節、ストレス反応、炎症、そして場合によっては次世代への影響という形で悪影響が出てきます。
熟した果物、果汁、ハチミツ、ショ糖などは、甘味とともに、実際に利用できるブドウ糖や果糖を体へ届けます。自然の甘味料に優るものを人間が合成することはできないのです。
参考文献
【1】The glucose fatty-acid cycle. Its role in insulin sensitivity and the metabolic disturbances of diabetes mellitus. Lancet 1963, 1, 785-789.
【2】Excessive Sugar Consumption May Be a Difficult Habit to Break: A View From the Brain and Body. J Clin Endocrinol Metab 2015, 100, 2239-2247.
【3】Sucralose affects glycemic and hormonal responses to an oral glucose load. Diabetes Care 2013, 36, 2530-2535.
【4】Sucralose decreases insulin sensitivity in healthy subjects: a randomized controlled trial. Am J Clin Nutr 2018, 108, 485-491.
【5】Short-Term Consumption of Sucralose with, but Not without, Carbohydrate Impairs Neural and Metabolic Sensitivity to Sugar in Humans. Cell Metab 2020, 31, 493-502.e7.
【6】Sucralose consumption modifies glucose homeostasis, gut microbiota, Curli protein, and related metabolites in healthy individuals: A randomized placebo-controlled, triple-blind trial. Clin Nutr ESPEN 2025, 69, 733-744.
【7】Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 2014, 514, 181-186.
【8】Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance. Cell 2022, 185, 3307-3328.e19.
【9】Artificial and natural non-nutritive sweeteners drive divergent gut and genetic responses across generations. Front Nutr 2026, 13, 1694149.
【10】Artificial Sweeteners and Risk of Type 2 Diabetes in the Prospective NutriNet-Santé Cohort. Diabetes Care 2023, 46, 1681-1690.
【11】Artificial sweeteners and risk of cardiovascular diseases: results from the prospective NutriNet-Santé cohort. BMJ 2022, 378, e071204.
【12】Association between intake of non-sugar sweeteners and health outcomes: systematic review and meta-analyses of randomised and non-randomised controlled trials and observational studies. BMJ 2019, 364, k4718.